寸法検査を行う

あなたは納期を守る、あるいは前倒しにするために、どういったことをしていますか?

ここでは私の経験則から、「完成度60%の原則」を紹介します。

 

私が機械設計者として自分で図面を描いていたのはエンジニア歴30年のうち、20年くらいです。

後半はもう自分で設計することはめったにありませんでした。

 

その実務20年の中で、自分なりに設計のやり方を工夫していたのが「完成度60%の原則」です。

できるだけ早期に設計の全体を把握し、精神的にゆとりをもって設計作業を行うことが目的です。

精神的ゆとりが納期対応には極めて重要です。

 

出図納期を守る方法と苦労

出図納期を守る方法として、まず思い付く方法としては、次のような手があります。

●設計範囲の分割  
設計範囲を分割して複数の設計者で同時設計する。

●作業範囲の分割  
例えば設計と製図を分けて同時進行する。

●出図範囲の分割  
本体を先に出図して、カバー関係は後から出図する。

●機能範囲の分割  
いくつかの機能に分解して、優先順位をつけて出図。

 

これらをいくつか組み合わせて更に納期を短縮することもあるでしょう。

ただ、設計と言う仕事は新しい付加価値の創造です。決まった答えが予め用意されているわけではありません。

 

3週間後に出図と予定を決めていても、まったく進まずあせりまくることもあるでしょう。

でもどんな難しい、付加価値の高い設計でも必ず納期はあり、それに間に合わせなくてはビジネスにはなりません。

 

工程表

 

我々は利益とかけ離れた場所で研究だけに没頭している訳ではありません。

設計と言う仕事は新製品を市場にリリースすると言うビジネスの上流工程として、日程を守る使命を背負っています。

 

あるいは工場に設備を導入して生産計画を守る使命を背負っています。

当然、図面が出なければ、そこから下流は全く動くことが出来ません。

 

ところが、ある程度日数がたって、出図予定日が近づくと絶対に間に合わないと分る場合があります。

もう1週間しかないのに、設計が半分くらいしか進んでいない。どう考えてもあと3週間はかかりそうだ。こんな場合です。

 

2,3日徹夜したくらいじゃ、絶対に間に合いそうにないことが見えているのです。

「出図日を間に合わせるのは到底無理。あきらめよう。」

そう思った瞬間に、言い訳を考え始めます。

 

うまくいかない

 

「もともとが無理な日程だったんだ。あれほど無理だって、自分は言ったのに、強引に日程を決めた課長の責任だ。自分は最大限努力してる!」

あなたはこう、自分に言い聞かせます。

 

確かに、設計の日程調整で、あなたがこれなら十分だと納得出来るような余裕のある計画を確保出来ることは、滅多にないでしょう。

 

たいていは、最初から無理を承知の厳しい強行軍ばかりでしょう。それゆえ、先ほど上げたような「分割」を考えて少しでも時間を稼ぐ訳です。

 

人間と言うのは、頑張れば何とか出来ると信じている間は、すごいエネルギーが出ます。

でも、どうせ頑張ってもダメだと思うと、前向きなエネルギーは出ないように造られています。

 

タイムリミット

 

これは設計でも言えます。

3日間ほとんど寝ないで図面が描けるのは、それくらいやれば何とか納期に間うと信じているから頑張れるのです。

あと1ヶ月は絶対にかかると分っていれば、3日間の徹夜は出来ません。そんな気力は湧いて来ないです。

 

設計作業の納期短縮は、実はこの精神的なコントロールが非常に重要なのです。

約束した期日へのプレッシャーにつぶされず、しかも精神的にも肉体的にもギリギリに近い線まで自分自身を追い込めるか。

 

こういったハイテンションの時間を長く続けることが出来れば、その間の仕事は品質も高く、スピードも速く、ぐっと工期が縮むのです。

 

中学生が夏休みの宿題を、登校日の前の日から必死になってやるように、出図が近づいて来ないと本調子が出ないようでは設計納期に間に合いません。

 

いかにしてスタート直後からあなたのテンションを最高位に持っていくか。プレッシャーも心地いい緊張感に変えて、前向きなエネルギーに出来るか。

その対策が「完成度60%の原則」です。

 

「完成度60%の原則」とは?

通常設計作業は、製品の全体をいくつかのユニット単位に分けて開始します。それを他の担当者と分けて分担することもあるし、一人で全部やることもあります。

 

そのユニットの設計完成度をまずは「60%」をメドに次々と移っていくのです。

つまり、あるユニットが「60%」まで完成したと思ったら、次のユニットに移ります。

 

何か難しい問題にぶつかって、これ以上先には進まないから次に移るのではありません。順調に進んでいても「60%」まで出来たと思えば次に移るのです。

 

むろん、複数のユニットを同時進行で設計する場合もあります。そのときでも、どれか特定のユニットを「60%」以上先行させることはしません。

まずは「60%」の完成度で全体を仕上げてしまうのです。こうすると、ある安心感が生まれます。

 

機械設計者

 

全く手付かずのユニットがないので、全体の見通しが立ちます。どんな問題がありそうだとか、案外スムーズにいきそうだとか、手ごたえが分ります。

 

常に自分の仕事のペースが、予定の工程に対して問題ないことを実感できるのです。

その安心感は余裕を生み、エネルギーを生み出します。

 

何とか間に合うと実感できたとき、ものすごいエネルギーが生まれるのです。

決して、ギリギリに追い詰められた9回裏ツーアウト満塁でエネルギーが生まれるのではありません。

 

例えば、数学のテストをイメージして下さい。持ち時間は60分です。

あなたはテスト開始と同時に何をしますか?

たいていの方は問題用紙全体をチェックするでしょう。どんな設問が並んでいるか、確かめますよね?

そして自分の得意な、出来そうな問題から先に手を付けますよね。

 

数学の試験

 

難しい問題に出くわしたら、それが解けない間は次の問題に移らない、なんて人はいないでしょう。

仮にそんなことしていたら、いくら時間があっても足りません。

 

難問に出くわしたら、解くのに1時間かかるか、2時間かかるか分らないのですから。

限られた時間の中でいかに高い得点を取るか。それが命題ですから、とにかく1つでも多く正解を書くことが大事です。

 

何より、答案用紙がある程度埋まっていれば、安心出来ます。時間ばかり経過して、まだ答案用紙がほとんど真っ白だったら・・・

頭まで真っ白になって、あせるしパニックになるかも知れません。

そうすると持っている力も出し切れず、本来解ける問題さえも解けずに間違うかも知れないのです。

 

設計作業においても全く同じ構図が言えます。

付加価値の高い設計が求められているのは当然ですが、同時に納期に間に合わせることも要求されています。

 

まずは、納期と言うプレッシャーのかかる要素に対して、安心感を持つことが大事です。余裕が欲しいのです。

 

60点かもしれないけど、とにかく答案用紙をそのレベルでは提出することが出来ると分れば、あとは残された時間でいかに得点を上げていくかに専念出来ます。

 

実際には、その「60点」まで行くことが非常に困難であったり、また自分では「60点」だと思っていたら、後になって実はまだ「20点」だったりすることもあります。

 

ゴールに到達

 

それでも、設計図としてある程度全体が見えていることは安心感を生みます。これでは品質的に自信がないと分れば、事前にリスク対策を検討する余裕もあります。

 

時間的制約で今はこの設計で出図するけど、後からゆっくり考えてもっといい案が出たら、入れ替えることが可能な設計にしておけばいいのです。

 

そんな細工も余裕があればこそ可能です。追い詰められてパニック状態、あきらめ状態なるといいアイディアは生まれません。

 

たぶん、あなたも同じように全体を見て設計作業をされていると思います。部分だけを先行して1つづつを完成させるやり方をしている人はいないでしょう。

ここで私がお勧めしたいのは「60%」と言う目安です。経験則ではありますが、ベストなパーセントだと思っています。

 

まとめ

設計作業をするときは、各ユニット別にまずは「完成度60%」を目指します。

それが出来れば設計全体が60%完成したことになります。

 

60%の完成度があれば、納期も品質もかなり確度の高い見通しが立ってきます。そこで改めて残り40%をどう完成させるか、という作戦を立てることができます。

 

「完成度60%の原則」は、出来るだけ早く設計の全体像をつかみ、そこからじっくり細部を仕上げるという考え方です。

細部を考え、全体を見て、また細部に戻る。この繰り返しが納期も品質もクリアできる効率のいい設計です。